回向返照

回向返照えこうへんしょう

 思い起こすと、2001年にアメリカで大変な事件がおこりました。非道かつ悲惨な同時多発テロ事件がありました。それに対抗して報復攻撃をするアメリカ。そして報復に報復をもって対抗するタリバン政権。この争いは一極集中の権益欲と長年にわたっての溜まりにたまった怨憎のぶつかり合いということでありましょう。

 煎じ詰めれば、制止の効かない五欲※(財欲や権力欲など)が起こす行為であり、五根※(五欲を発生させる根元)の賊の為せる仕業でありましょう。こういうことから起因する災いは、お釈迦様は「この災禍は一世代続くどころか、世々代々にわたり、その害たること甚だ重く、劫害(宇宙の崩壊、ビッグシュー)の如し」と仰っております。煩悩は使い方によっては恐ろしいことになるということです。

 2008年にはアメリカ発のリーマンショックという経済危機が世界中を襲い、3年後の2011年には追い打ちをかけられるように東日本大震災、福島県の原発事故が発生しました。財政難、企業倒産などの問題を抱えながらも、東北地方の復興や福島の放射能除染は国を挙げての最大級の課題で総力戦でした。ドタバタと、オロオロと、復興へ邁進していました。ところが、あろうことか、その最中にオリンピックの誘致騒ぎをし、誰にそそのかれたのか、とうとう開催国になるという愚行を演じてしまいました。こういう現象は、平和の湯に長年つかっている茹で蛙だということではないでしょうか。

 秩序怪しく日銀に札束を刷らせながら優柔不断、ぐずぐずしている内に本年2020年になりました。そこに新型コロウイルスが発生しました。世界中に感染拡大し長丁場になりそうで不気味です。オリンピックが延期になってしまいましたが、ざまあ見ろとは言いません。生活が萎縮し、元気なのはうちの猫だけ。経済活動が疲弊し停滞しつつあります。なんとかならないものかと思いますが、こればかりはどうにもならないようです。ワクチンや治療薬を早急に作ることに越したことはないでしょう。

 この騒動で、人間は生存への価値観を大幅に変えなければならないでしょう。経済活動を優先し、科学文明によって快適な生活がそこそこにはできるようになっています。落ち葉や雑草が邪魔になる程、土が汚いと言っていじくれない程、一様は平和であります。天然でしかも慣れそめた環境を人間社会から乖離させ、人間独りよがりの生活を仮りそめに享受しているようであります。

 しかし、考えますと、人間も自然であり、樹木や土などの環境や各種の生物と共に生きているからして、そういう天然ものを排除した環境には人は住めないはずであります。日本は欧米諸国と違って、土壌が肥沃ひよくであります。至る所に山や川があり樹木や草花が繁茂しています。それらを排除する傾向は、自分自身を苦しめ、本来の地に着いた生き方から遠ざかるという自殺行為のように見受けられるのです。高度経済成長時代の物欲偏重指向は本来の自分を見失い、八方塞がりのようです。ただあるのは自我の固まりであり、無制御の五根・五欲でありましょう。この我執が邪心賊身となって外に発奮すれば外部攻撃となり、陰に逼塞ひっそくすれば自虐願望となるのどちらかでありましょう。

 今、日本はもう一度立ち止まって八方を見渡し、自国の歴史文化、風土環境、はたまた伝統に裏打ちされている自身の精神資質を見直さなければならないでしょう。自分を見失うのも煩悩の仕業であります。煩悩が湧きに湧くのは良いとしても、ただその使い方が大事であると言われます。あるものは捨て去り、あるものは制御し、あるものは調整し活用するという確固たる自己がなくてはならないのであります。肝心要のところは、自己本地の風光である仏心に安身立命しなければいけないのです。

回向返照の退歩を学すべし

道元禅師

※ 五欲•••財産欲、色欲、これは男女間の愛執ですね、愛によるとらわれ。それから飲食欲と申しまして、飲み物や食べ物に対する欲。あるいは名誉欲。あるいは、いつまでも寝ていたい、睡眠欲というもの

※ 五根•••五種の感覚を生じる機関であり、5つの知覚能力(眼・耳・鼻・舌・身)のこと

2020.11.28 掲載

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