諸悪莫作
中国は唐の時代、松の枝に乗って坐禅をしている道林という和尚がいました。そこに訪ねてきた彼の有名な詩人の白楽天が「和尚!危ないですよ、そんな処で坐禅なんかして。」と言葉をかけました。そうしたら、道林和尚は「貴方こそ危ないですよ」と言うのです。当時、白楽天は長官の職にあり、真偽顛倒、虚虚実実の日々を送っていて自分の地位が危ない上、ノイローゼになっていたのでしょう。そこで問答が始まるのです。
白楽天いわく「仏教の教えとは何ですか、如何なるか是れ仏法の大意」と。
道林いわく「悪いことはするな、善いことをしなさい、諸悪莫作、衆善奉行」と。
これは道義として当たり前のことです。しかし、昨今の世情は善行はなかなか実行できていないようです。アメリカ主導型の使い捨て消費経済が食品や家、町並み造成まで行き渡って、見せ掛けである茶髪文化を売り込もうとする熾烈な競争が行われています。そういう中、詐欺まがいの虚飾や偽装・偽善が蔓延し人間関係までもがおかしくなり、本音と誠意で人と交えることが出来なくなっている風潮があります。この道林の言葉は、狡猾者が得をし正直者が損をするような事があってはいけないと訓告をしているようです。
今、”勧善懲悪の時代劇映画”が茶髪の若者の中で売れているという。彼等は狡くて嘘偽りの多い社会を無意識の内に感じ取っているのでしょうか。無意識であっても、古きよき日本人の道義心に憧れているのであれば未来は捨てたものではありません。
問答は続きます。
白楽天いわく「そういうことは、三歳の童子でも知っていることではありませんか」と。
道林いわく「三歳の童子も知っていることだが、実行は八十の老人になっても出来ていない」と。
白楽天はお拝をし謝意を表す。
諸悪莫作 衆善奉行
自淨其意 是諸仏教
七佛通戒偈※
(諸悪をなすことなかれ、衆善を行じ奉るべし、自らその意 を浄む、是れ諸佛の教えなり)
※七佛通戒偈とは、七仏とは過去七仏といわれる毘婆尸仏・尸棄仏・毘舎浮仏・拘留孫仏・拘那含牟尼仏・迦葉仏・釈迦牟尼仏のことであり、釈尊以前の仏を指します。お釈迦様はご自分のことをこの世における最初の仏とは仰らず、自分は古仏の跡を歩んだのであるとされ、過去七仏の存在を説いておられます。つまり、これはお釈迦様だけが説かれるのではなく、過去よりこの世の諸仏が皆同じように説いている普遍の真理だという教えをあらわした偈です。
2020.10.31 掲載